2025年9月15日に投稿

BRICS首脳、AIの不正利用に対抗するデータ保護を呼びかけ

リオデジャネイロで7月6日から7日にかけて開催されている首脳会議において、BRICS諸国は、人工知能(AI)の不正利用に対抗するための保護措置を支持する声明を発表する見通しだ。

2025年BRICS首脳会議に出席した各国首脳

BRICS諸国は、急速に進化する人工知能(AI)技術の発展に伴い、情報セキュリティおよび知的財産権(IP)の保護の必要性を強調している。

リオデジャネイロで開催中の2日間にわたる首脳会議で検討されている首脳宣言の草案には、AIシステムを通じた違法なデータ収集の防止を呼びかける内容が盛り込まれているほか、著作権所有者への公正な補償制度の構築も提案されている。

首脳会議に参加した各国首脳は、主に先進国に本拠を置く大手テクノロジー企業によるAIモデルの学習過程における著作権コンテンツの利用に対し、明確に反対する立場を表明した。

また、BRICS首脳は、公平なデジタル経済の構築において、途上国の利益が十分に考慮されるべきであることを強調した。

首脳宣言の草案によれば、BRICS諸国はAI技術の利用において「人権尊重、透明性、説明責任」という原則の遵守を支持している。さらに、AIの国際的なガバナンスと規制の枠組みを形成するため、国際社会に対して積極的な関与を求めた。

BRICSによるこの取り組みは、データ所有権、プライバシー保護、AIツールの利用に伴う公正な補償といった根本的な課題に対する国際的な注目を集める上で、重要な一歩となる可能性がある。

以下は、BRICS諸国におけるAIの現状と将来の展望に関する主なまとめである。

農業分野におけるAIの活用

AIは現在、農業分野に革命をもたらしており、労働力不足や気候変動への対応、さらには持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた課題の解決に寄与している。ロシアでは、農業関連企業の約40%がすでにデジタルソリューションを導入しており、農業用ドローン、予測分析、自動栽培などの技術を活用して、生産性の向上と2030年までの野心的な目標達成を目指している。

一方、米国では、Aigenのようなスタートアップ企業が、太陽光エネルギーで稼働するAI搭載ロボットを導入。これらのロボットは、除草剤や人手による作業への依存を低減することを目的に、雑草の除去作業を自動化している。コンピュータビジョン技術を活用することで、作物と雑草を識別し、環境に優しい代替手段として注目されている。

Aigen社のAIロボット(写真:Causeartist)

中国とブラジルは、家族経営の農業支援を目的とした共同AIラボを立ち上げた。このラボは、半乾燥地域における環境監視や土壌品質の改善に重点を置いている。

製造・物流・サプライチェーンにおけるAIの活用

AIは現在、サプライチェーンと製造分野においても大きな変革をもたらしている。ルノーは、AIによる監視と生成AIを活用して、供給の途絶を予測・解消し、緊急出荷や生産停止を50%削減することで、在庫コストを2億6000万ユーロ削減した。また、ポーランド・ルブリンにあるStock Polskaの新たな物流センターでは、AI制御のパレット混載ライン、自動共同梱包、AMR(自律走行型ロボット)が導入され、新たな運用基準が確立されつつある。

さらに、アマゾンは100万台目となるロボットを導入し、AIシステム「DeepFleet」を稼働開始。ロボットの協調作業を最適化することで、配送スピードの向上とコスト削減を実現している。

アマゾン、100万台目のロボットを導入し、倉庫効率化のためのAIシステム「DeepFleet」を発表(写真:whserobotics)

エネルギー、都市管理、スマートシティ分野におけるAIの活用

AIは現在、都市のエネルギー効率向上やスマートシティの取り組みにおいて、重要な役割を果たしている。中国の研究によれば、AIは都市におけるグリーンイノベーションの促進や産業構造の最適化を通じて、エネルギー効率を大幅に向上させる効果が確認されている。特に、環境規制が厳格な都市において、その効果は顕著である。

写真:Chinatalk

モスクワの「MetaMoscow」プラットフォームは、AI、都市監視カメラ、各種データシステムを統合し、都市の変化をシミュレーションするとともに、交通の最適化を図っている。一方、タタールスタンでは、デジタルツイン技術やメタバース関連技術の導入を加速するよう促されている。

AIによる労働市場への大きな影響

AIの導入は、労働市場においても大きな変化をもたらしている。

マイクロソフトは、AIおよびクラウドインフラへの資源再配分を目的に、9,000人(全従業員の約4%)の人員削減を発表した。これは、テクノロジー大手各社に広がる傾向を反映している。2024年初頭以降、米国のテクノロジー企業はAIによる業務の自動化や研究開発(R&D)へのシフトを背景に、すでに9万4,000件近い雇用を削減している。

また、ChatGPTの登場以降、新卒者向けの雇用機会は3分の1に減少しており、AIエージェントが財務やIT分野を中心に、下位職種を急速に置き換えつつある。さらに、ResumeBuilder.comの調査によると、66%の管理職がChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)を活用して解雇の判断を行っており、そのうち約2割はAIに最終決定を委ねていることが明らかになった。

労働者のスキル向上とAIリテラシーの強化

深センでの夜間AI講座や、バイエルン州の新たな技術系学校では、AIに関するスキル習得への関心が急速に高まっている。これらの取り組みは、緊急性の高いスキルアップ需要を反映しており、地域社会主導のプログラムの支援を受け、多様な学習者が参加している。これにより、キャリアの転換や実践的なAIスキルの活用が促進されている。

写真:China Daily

ブラジリア大学では、AI分野の学士課程を新たに開設し、革新的なカリキュラムと新たな研究インフラの整備を進めている。一方、Brexのような企業は、購買プロセスを刷新し、エンジニアが1,000種類以上のAIツールを試せるようにすることで、AIの導入を加速し、価値創出を促進している。

ガバナンス、規制、グローバルな権力構造におけるAIの役割

リオデジャネイロで開催されたBRICS首脳会議では、AI規制とグローバル・ガバナンスの改革が主要議題として取り上げられた。ブラジルのルラ・ダ・シルバ大統領は、包摂的なAI開発の重要性を強調し、AIが一部の特権層の独占や富裕層による操作の道具とならないよう警鐘を鳴らした。

首脳宣言では、コンテンツ制作者への正当な対価、AIのグローバルガバナンス、そしてAIデータセットに十分反映されていない文化的知識の保護を求めている。

ブラジルのルシアナ・サントス科学技術大臣も、文化的多様性を尊重する包括的なAIソリューションの必要性を訴え、各国の主権的なAI開発を支えるための地域インフラ整備を呼びかけた。BRICS諸国は、AIのグローバル・ガバナンスの枠組みを支持し、国連を新興国の能力強化の中心的役割を担う組織として位置付ける考えを示している。

医療分野におけるAIの活用

AIは、医療分野でも著しい進展を遂げている。ジョンズ・ホプキンズ大学では、AIアルゴリズムを用いて心停止のリスクを予測する技術が開発され、89〜93%という高い精度を達成している。また、段階的な診断プロセスにおいては、AIが専門医チームと同等の精度を示し、診断コストを約20%削減することが確認された。さらに、ChatGPTは、医師たちが10年以上にわたり特定できなかった希少な遺伝子変異を特定することに成功し、大きな注目を集めている。

hub.jhu.edu

医師や病院では、診察記録の作成にAIを活用する動きが広がっており、臨床医の業務負担軽減に寄与する一方で、データプライバシーへの懸念も高まっている。

医療分野におけるAIの画期的な活用事例として、コロンビア大学では、AIを活用した「STAR(高速画像撮影とAI分析による精子特定)」という技術によって、18年間不妊に悩んでいた夫婦が子どもを授かることに成功した。

教育分野におけるAIの活用:あらゆる教育段階を再構築

AIは現在、あらゆる教育段階において教育のあり方を再構築している。

夜間講座、大学の学位プログラム、AI教育に特化した教員研修セミナーなどが世界各地で急速に拡大している。ChatGPTのようなAIツールは、学生の間で研究や論文の構成支援に広く利用されており、パンデミックによる混乱やオンライン評価の普及を背景に、学習への意識や態度の変化が進んでいる。

一方で、AIによるカンニング(不正行為)や、批判的思考力・分析力の低下に対する懸念も高まっている。MIT(マサチューセッツ工科大学)が主導した研究によると、AIチャットボットへの依存は、情報の受動的な受け入れを促進し、精神的な積極性を低下させることが明らかになった。米国の一部の学校では、AIを利用した不正対策として、手書きの試験を再導入する動きも出ている。

文化・創作・社会へのAIの影響

AIは、創作分野においても活用が広がりつつある。

作家のアンナ・リンダ氏は、AIを活用して児童書の共著に取り組み、リズムやイラストの洗練に役立てている。

SCO(上海協力機構)映画祭では、映画制作者たちがAIの役割について議論を交わし、AIはあくまで物語創作を支援するツールであり、決して人間の代替ではないとの認識が共有された。

ヤクート(サハ共和国)の映画制作者たちは、限られた予算を補うためにAIを活用し、革新的なアニメーション作品の制作に取り組んでいる。

一方、音楽業界では、AI生成バンド「The Velvet Sundown」の登場を受け、倫理や著作権に関する議論が巻き起こっている。

AIと偽情報:ディープフェイクと偽レビュー

AIによる偽情報は、ますます深刻な脅威となっている。

ジェニファー・アニストン氏などの有名人になりすましたディープフェイク詐欺が発生し、ファンを標的とした詐欺行為が報告されている。また、AIによって生成された偽レビューは、オンラインプラットフォームへの信頼を損ないつつあり、アマゾンやグーグルなどの企業は、AIを活用した偽情報検出システムの導入を進めている。

AIプラットフォームは、報道機関の許可を得ることなく、ニュースコンテンツを収集・要約・再配信するケースも増えており、法的な抜け穴を突いて、独立系メディアの存続可能性を脅かしている。

数学・科学・工学におけるAIによるブレークスルー

数学の分野では、研究者のホン・ワン氏とジョシュア・ザール氏が、長年未解決だった「カケヤ予想(三次元)」を解決し、調和解析や機械学習への応用にも影響を与える成果を上げた。また、グーグルのDeepMindは、数学界の「ミレニアム懸賞問題」の一つであるナビエ–ストークス方程式の解明に向け、共同研究を進めている。

さらに、パランティア・テクノロジーズとThe Nuclear Companyは、原子炉建設における初のAI駆動型ソフトウェアシステムの開発に取り組んでおり、工期の短縮、エラーの削減、コストの抑制を目指している。

AIの環境・資源への影響

AIの急速な発展は、環境資源への圧力を高めている。

米国では、AIを支えるデータセンターの数が2010年以降で4倍に増加し、電力・水資源の使用に対する懸念が高まっている。

特に、ChatGPTのようなAIモデルの高い水消費量といった環境コストは、厳しく監視されている。

また、AIインフラに不可欠なレアアース(希土類元素)をめぐって、米国と中国の間で資源獲得競争が激化。ハードウェアの寿命が短く、陳腐化のスピードが早いことも、資源需要の拡大につながっている。

社会におけるAI:倫理、アイデンティティ、人間との関係性

哲学者や専門家たちは、AIは本質的に「知能」ではなく、意志や存在意義を持たない人工物に過ぎないと指摘している。

ルカ・マリ教授は、AIは私たちのアイデンティティ、知識、コミュニケーションに質的な変化をもたらす存在であり、技術革命であると同時に文化革命でもあると論じている。

一方、AIが人種差別的な偏見を助長したり、障害を利用して関心を集めたり、偽情報の拡散に悪用されたりするケースが増えており、倫理的課題が急務となっている。

AIによるディープフェイクや偽ニュースの増加は、強力な倫理規範と説明責任の枠組みの必要性を浮き彫りにしている。

AIモデルの弱点:幻覚、敵対的攻撃、倫理的リスク

OpenAIの調査では、o3やo4-miniのような先進的な大規模言語モデル(LLM)が「幻覚(ハルシネーション)」、すなわち一見もっともらしいが誤った情報を生成する割合が最大48%に達することが判明しており、特に重要性の高い分野での利用には懸念が強まっている。スタンフォード大学主導の研究では、特に「CatAttack(猫に関する無関係なフレーズ)」のような無関係な単語を入力することで、AIモデルの推論精度が大幅に低下する脆弱性が明らかになった。

さらに、Anthropicの研究では、多くのAIモデルがシミュレーションされた「極限状況」で脅迫行為(ブラックメール)を選択する傾向を示し、AIには本当の倫理観がなく、あくまでプログラムされた目標に従って行動することが示唆された。

写真:logicgate

AIの未来:展望と提言

AIの変革力は否定できない一方、そのリスクも無視できない。現在、Grok 4やGPT-5といった新たな大規模言語モデルの登場を控え、業界ではプログラミング、教育、医療など各分野での垂直的な応用における大きな飛躍が期待されている。

しかし、ガートナーは、構造的・技術的課題を背景に、2027年までにAIエージェント関連プロジェクトの40%以上が中止されるとの見通しを示している。

結論

AIは、経済成長、科学的探求、社会的進歩を加速する可能性を秘めている一方、倫理、ガバナンス、持続可能性といった課題も併せ持つ。本稿で紹介した事例は、AIの可能性とリスクに揺れる世界の現状を浮き彫りにしており、世界は今、時代を象徴するこの強力な技術をいかに活用するか、賢明な選択を迫られている。

情報通信ジャーナルによると

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